Little AngelPretty devil 
       〜ルイヒル年の差パラレル・番外編

       “風は冷たいですが…”
 



いよいよと冬らしい寒さがそこここへ訪れている今日この頃。
人の世界でも暦がそろそろ押し迫るとあってか、
懐ろ具合や階位なぞに関係なく、
誰も彼もが寒さに身を縮めたそのまま せわしく急ぎ足になる頃合いで。

「市中だけじゃあない、宮中でも似たようなものでな。
 やることは例年と変わりないはずだが、
 さあさ、急いだ急いだと慌ただしいやら騒がしいやら。」

まるで新しい年に追い越されるんじゃないかと言わんばかり、
鬼のような形相になって下仕えの者らを叱咤する頭役の者の声が
あちこちから聞こえてくるのだそうで。

『厳しいことへのたとえにされたり、
 そうかと思えば来年のことを云えば笑うとされたり、
 鬼もいい迷惑かも知れないな。』

そんな風に言っていたのは、
武者小路家にて修行中の幼馴染、陸じゃあなかったかななんて思い出しつつ、
そろそろ梢からより吹き溜まりから飛んでくるものの方が多い落ち葉を
竹ぼうきで掃いておれば、

「せぇな。」
「せぇな、こっちvv」

わぁいと弾んだお声とともに、
小さな弟分たちが、
丸い頭のてっぺん近くへ結ったお尻尾のような房髪を跳ねさせつつ、
てことこ無邪気に駆けてくる。
小柄な瀬那よりもっと小さな愛くるしい童二人、
お顔も姿も瓜二つだが、
じつは片やはもう一人を真似ている身。
天狐の葛葉とそのお友達で、元は野狐のこおという仔。
ちょっとした経緯から天宮へ昇って、そこでの不思議な治療を受けたため、
本来は歳月と経験を重ねて生気を濃くし、
術を会得してからでないとならぬ、転変の術が使えるようになり。
お友達のくうちゃんと瓜二つの童の姿になって
日々仲良く遊んでおいでの二人なのだが、
そんなおちびさんたち、
こっちだよと呼んだくせに自分たちでとことこ駆けて来て、
庭先で落ち葉を集めていたセナへ“これ”とそれぞれに手を突き出す。
小さくてやわらかそうなふくふくした手には、
同じ野草のお花が握られていて、

「わ、これってツワブキじゃないか。」

黄色が可憐な、菊に似た素朴な花で、
この寒い中での手近というと
ようよう手入れされた山茶花しか咲かぬ中、
お日様みたいな黄色は、寒さから縮こみがちな心を元気にしてくれるよう。
わあとお顔をほころばせたセナだったものの、
だが、

「でも、まだ早いんじゃあ…」

晩秋から初冬の花で、日陰でも育つ強い草。
早い地域では11月の頭辺りから咲くが、
この辺りは毎年必ず雪も降るような土地なので、
年の瀬という今時分は微妙なはずなのにと、
こういうことには詳しいセナが小首を傾げると、

「ちゅきがみが おせぇてくえたの。」
「あぎょんも ちらないゆってたのに。」

可愛らしいお花の先から、まるで何かを注ぎ込むように。
どうぞと傾け差し出したそのまま、
そんな言い方をして、ちびっ子同士で“ね〜vv”とお遊戯みたいにお顔を見合わせる。
この子らの言う“ちゅきがみ”というのは、

「…進さんが?」

セナの身を守らんと
常に傍らにいて見守っておいでの守護こと、荒ぶる武神のことであり。

「せぇなは今頃に生まれたから、それを おいやいしてあげてって。」
「おいやいってのは何だ。」

割り込んで来た大人のお声へ、ありゃりゃと首をすくめた書生くん。

「お、お祝いって意味だと思います。////////」
「そうかそうか、あのむさくるしい奴がなぁ。」

実はちゃんと推察していたんだろうに、わざわざ訊いたらしい蛭魔だったのへ、
もうもうと拗ねるように口許尖らせたセナだったが、
小さな二人から差し出されたツワブキのお花、
大事そうに受け取るとほこりと微笑った冬の午後。




  
     〜Fine〜  16.12.30


  *セナくんのお誕生日にと書き始めたのですが、
  忙しさが半端なくて放り出しておりました。
  平安時代だと今時分はまだ年の瀬ではありませんが、
  例年の通り今の暦に合わせました、悪しからず。

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